準優進出を果たした菅
準優進出を果たした菅

◆GⅠウェイキーカップ開設71周年記念(2日・ボートレース多摩川・4日目)

 決して王道を進んだわけではなかった。4日間の予選ラウンドは、もうハラハラ、ドキドキ、ギッタンバッコン、そして猛烈に伸びに伸びて、スリルと迫力満点のパフォーマンスと着順メイクで菅章哉がベスト18入りを果たした。

 セミファイナル進出を賭けた4日目の大勝負2番は、もうドラマチック、エキサイティングそのものだった。

 まずは前半4R。絶好の1号艇に収まったが、2コースの上條暢嵩にやんわり差し込まれて、むなしく4着に沈んだ。一気に準決勝戦進出があえなく遠のいた。

 「インで失敗しちゃったので、もうその時点で、あとは3回まくり切るしかないと腹をくくりました!」

 その自信はあった。いやいやメッチャあった。

 チルト3度を巧みに操るボート界のスーパー奇才と、直線でうなり飛ばし、えげつない伸びを見せる63号機の相性は最高だった。マッチングアプリを使わずとも、ファンもライバルも誰もが恐れる最優良パートナーだった。

 「もう、伸びに関していえば間違いなく節一です(小さい体で堂々と胸を張りながら)」

 そして、後半8R。2号艇に番組されたが、迷うことなく3コースカド位置へボートを配膳した。

 スタートラインに近づくたびに、もはや目視でわかるぐらいのえぐいスピードを吐き出しまくって豪快にまくり切り、容赦なく突き抜け切った。

 「実はこの大会へ入る前に東京ディズニーランドへ行って人気アトラクションのビッグサンダーマウンテンに乗ってきたんですよ。40分ぐらい待って乗りましたが、初日とかは本家の方が全然スピード感がありました(苦笑)。でも、3日目辺りから、まあ30分ぐらいは待ってもいいぐらいに自分のエンジンも良くなってきました(笑)。だって、後ろから行っても前に行っちゃうんですからね!」

 「伸びは節イチ。出足は弱い。乗り心地も悪い」という長所が完全一点特化するこのエンジンの性能を最大限に引き出すには、もうチルト3度に設定するだけだった。まさに菅が欲する個性が極端に偏った相棒だった。

 そして、波の立っていない穏やかな多摩川の静かなる水面を見つめながら、今度はしみじみとつぶやいた。

 「そうですね、もう6、7年前になるんですかね。自分がチルト3度を使うようになったきっかけが、ここ多摩川だったんです。何年か前にこの大会(2017年)をチルト3度で3カドからまくり切って優勝した三井所尊春さん(2022年引退)に3度の扱い方を教えていただいたんです。そこからなんです、今の自分があるのは」

 さらに、ここからさらに思いを込めて続けた。「だからこそ、いつか自分も多摩川の記念レースを3度で優勝したい。そして三井所さんにいい報告をしたいと思い続けてきました。本当に相手は強いですし、起こしでちょっとでも鳴いてしまったら、もうそこで終わっちゃう可能性だってあります。でも…、今回がその大きなチャンスなんです!」

 今大会の菅は、トランプに例えるなら得体の知れぬジョーカーである。

 峰竜太は途中帰郷し、茅原悠紀は2日目のフライングに散った。

 ダブルエースが早々と姿を消した後、絶対的注目を集め、レースをかき回し、彩りをもたらしたのはジョーカー菅だった。

 V達成へ大きな山場となる準優勝戦は、チルト3度不発であっさりとゲームに参加できないまま、カード箱に収まり続けてしまうかもしれない。

 でも、チルトパワーがさく裂した瞬間、その時ジョーカーは無双の最強エースに大化けする。

 4日目を終えて、本家ビッグサンダーマウンテンのスピードと迫力を今、菅が操る“ビッグ3度ダーマウンテン”が超越、凌駕しようとしている。

 さあ、絶景なる山頂へ向かって、一気に跳ね上がれ。「ファンのみなさんがレース前から番組を見て、どんなレースになるのかワクワクしてくれたら、最高ですね!」

 大仕事のにおいしか、漂ってきません。(淡路 哲雄)