山口剛
山口剛

◆SG第28回チャレンジカップ/G2第12回レディースチャレンジカップ(27日・ボートレース福岡・3日目)

 同期たちの誰よりもアーリーブレークした20代、歯がゆくも完全スパークし切れなかった30代を経て、自己マックスの強さを誇る43歳の山口剛が今、ここにそびえ立つ。

 「実は30代の半ばぐらいまでですかね。正直に言うと僕は少しあぐらをかいていたような気がするんです。自分は20代でSG(2010年クラシック)を勝ちました。若い頃って結構多くのチャンスが巡ってくるもんなんですよね。そして自分はSGで優勝できたんですが、あれは流れや運もあったんです。でも、あの頃は自分の実力だと思ってしまったんでしょうね。だからあぐらをかいてしまった。好きじゃない自分がそこにはいましたね」

 若手ホープの時代にビッグタイトルに手が届き、わずかでも慢心の気があったことを山口は素直に認めた。

 「その後ですね。そのことに気づいて気持ちが変わったというか。たくさん本を読んだり、この業界ではない方たちと食事をして話を聞いたりして、自分がすごくないということを気づかせてもらえた。20代ぐらいの時は年齢のボーナスってありますよね。普通にやっていても成長していくというか。もうそういう時期ではありませんが、あの頃があったからこそ、現在の自分があるんです。今の自分にはいろいろな面で圧倒的な強さがある。まだまだ進化できると明確に感じていますし、30代で脂が乗るとかは世間の統計的な考えなんです。自分は50代、60代になってさらに上に行けることもあるんじゃないかと思って、その準備を今からしているところです」

 ここまでの話を聞いていてすぐにわかる通りに、山口は頭の回転がえらく速い。とことん柔軟で多角的な目線から物事や自身をながめることができる。

 それは20代の頃からだった。極めて論理的で、時に大胆な逆説を唱えて実践できる度胸も備えていた。だから何というか山口なら、きっとどの分野に興味を覚え、進出してもきっと大きな成功を手にできる。その才はボートレースに特化したものではないと接するたびにその思いは強くなった。

 だからこそあえて聞いてみた。いつまでこの世界で現役を張り続けるのか。それを確認したかった。

 山口は苦笑いを織り交ぜながら快く答えた。「いずれ選手を辞めて、違うことをする?はははっ。僕はずっとこの仕事を続けていくつもりですよ。だってボートレースが大好きだし、舟に乗ることも好きなんです。毎日、毎日、すごい緊張感を持って勝負することができる。そしてファンが応援してくれる。こんなすごい仕事は他にはないですって。しかも、最近は以前よりもますますファンが増えてくれたような気がします。だから辞めない。もしも、違うことをするなら、ボートと掛け持ちでやりますよ。はい、できると思います。やめることを考えて仕事はやっていませんからね。まだまだ上を目指せますからね!」

 確かに2025年の彼があらゆる面で一番強い。そしてこの先、さらに強さを増した山口剛が必ず存在しているに違いない。(淡路 哲雄)