◆素顔のクイーン
歌舞伎の演目「連獅子」では、子獅子が親獅子によって谷に落とされるが、田中結(17)=大阪=の一家は少し違う。父・田中和也、母・原田佑実という同業の両親を持ちながら、子獅子は自ら、プロという千尋の谷に足を踏み入れた。両親からプレゼントされた竜虎のヘルメットを守り神に奮闘する17歳は、明るく楽しく、そしてクレバーに、自らの成長の過程を歩んでいる。(構成・上村 尚也)
―17歳のプロスポーツ選手というのは、日本ではまだ珍しい。初出走から半年、1期目のプロ生活は。
「年上の先輩ばかりなので、話す内容とかも、同級生とは違うなと感じたり。外で遊ぶ時も、公営競技のアレなので…」
―つまり意識はプロ。
「はい。変なことはできないし。ちゃんと私生活をしていこうと。自転車もルールが厳しくなったじゃないですか。だから使わなくなりました。移動も歩きと電車がメインです」
―私生活も含め、プロとしての姿勢は両親のアドバイスがあるのでは。
「全然です。家ではもう離れてる…」
―離れてる?
「一緒には住んでるんですけど(笑)。親とはそんな感じじゃなくて。ボートレースは置いておいての私生活って感じ。家ではボートからは離れているということです」
―ということは、親に頼れず、課題は自分で解決しなければならない。
「そうですね。わからないことは、先輩に聞いて。自分ができることは自分でして、それでもわからないことを先輩とかに教えてもらう。もちろん、先輩から言ってくれる時もあります。『ペラもこっちの方が良いんじゃない?』とか、提案とか。でも自分で『ここが乗りづらい』とかをちゃんと伝えないと分からないんで、自分で乗って確かめて『自分はこう思うんですけど…』みたいな感じでやっています」
―自分で質問の材料を作って聞く。記者の仕事にも通じます。
「結局は毎節、誰かにお願いするんですけど。ただ、いろんな先輩から聞くんですけど、『自分がわからんかったら、先輩の方はもっとわからんし』みたいな感じで言われて。だから、まずは自分が自分を一番わかっていないとダメということなんだと思います」
―この世界に飛び込むにあたり、両親の導きのようなものはなかったとか。
「私に、両親への憧れがあったんです。それで相談したら、受け入れてくれて。そんな感じだから、今でもボートレースの話はあまりないんだと思います。でも自分にとっても、そっちの方がいい。家に帰ってからもずっとボートの話だと、自分も家族も疲れるんで」
―その分、伸び伸びと走れますね。
「課題はいっぱいあります。やっぱりスピードを持って回ること。結構、落としちゃう気がするんで。あと、走る位置とかも。でも、ボートレースは楽しい。養成所の時から楽しかったです。『負けたくない』って思って乗ったら、またうまくなっている気がして、それがまたうれしい。賞金も、楽しいことをして入ってくるお金なんで、この仕事、いっぱいプラスがあるなあって感じです。だからこそ、もっともっとレースに参加できるようになりたい。レースに参加できれば、ボートレースがもっと楽しくなると思います」
○…田中は10月23日の住之江オールレディースで、待望の初勝利を挙げた。5月11日のデビューから95戦目。6コースからコンマ08のトップスタートを決めてまくり切った。「ここまで来るのに長かった、やっとという感じです」と、やはり安堵の表情。「(水神祭は)地元で挙げたかったので良かった。次はまずB1に上がることですね」と、新たな目標を設定した。
◆田中 結(たなか・ゆい)2008年12月30日生まれ。大阪府出身の17歳。大阪支部所属の138期生として今年5月11日に地元・住之江で初出走。10月23日の住之江オールレディースで初白星を挙げた。両親は、ともに97期で大阪支部の父・田中和也と母・原田佑実。157センチ、47キロ。血液型A。